骨補填材について
・・・ 人工骨か、自分の骨か、動物の骨か
私の所には、日々全国からインプラントの相談メールが入ってきます。また、私のセミナーには多くのインプラントドクターが勉強をしに来ます。その時、患者さんからの質問でもインプラントドクターからの質問でも多い質問が骨補填材についてです。
ある患者さんからは、
「私の通っている歯科医院でインプラントを行う時、牛の骨か人の骨を使いたいと先生に言われてしまいました。私は、そんな物を移植するのはどうしてもイヤなのです。どうしたらいいですか?」
というメールがあり、また、インプラントドクター達から
「先生はどのような骨補填材をお使いですか?それはなぜですか?」
という質問が多く出ます。
それでは現代インプラント界では骨補填材はどう使われているのでしょうか?
まずよく言われていることが「自家骨(自分の骨)がゴールデンスタンダード」という事です。骨のない所へ自分の骨で埋めることは最もいい事かもしれません。しかし、これには2つの欠点があります。
1つは「自家骨は人工骨より吸収しやすい」という事です。
つまり、最初は骨のボリュームを維持できたとしても、数ヵ月後もしくは数年後には減っている症例が多く報告されているのです。ただ私は自家骨に非吸収性の人工骨を混ぜることによって吸収をある程度押さえられると考えています。
2つ目の欠点は、自家骨をどこから採るのかということです。
一般的には多くの骨を採るには、下顎の顎の先、チンと呼ばれる所です。また下顎の実の外側からも採ることも多いです。ただチンの部分は、マヒが発生して後遺症になることがあります。
また最も大きな骨を採る場合、腰の骨などから採ることもあります。当然それには入院が必要です。
インプラント手術において、手術する場所以外を損傷することはある程度のデメリットとなり、患者さんの心や体の負担も大きくなります。このような自家骨主体の手術は病院の口腔外科の先生が多くします。
自家骨以外では、牛の骨も多く使われています。これは主に一般のインプラントドクターが多いです。その中で、牛の骨を使うことを患者さんに了解を得ている先生と、だまって使用している先生がいる事も事実です。
牛の骨は狂牛病のリスクがあるのでイヤがられますが、滅菌がされているの問題ないとも言われています。他人の人の骨は、多く欧米で使われます。滅菌された他人の人骨は問題ないとも言われますが、日本人の感覚ではまだあまり受け入れられないものです。日本ではこれを使用している先生は少数派です。
今、日本で最も多く使われている骨補填材は人工骨です。これは化学的に造られた物で患者さんのイメージも良い為です。種類は多くありますが、大きく分けて、吸収性の物と非吸収性の物があります。
このようないろいろな骨補填材でどれを選ぶかは、それを使用するインプラントドクター達の経験と習慣によって決まる事が多いのです。牛の骨ばかりを使っているドクターは、人工骨では不安ですし、自家骨が1番で、入院させてもいいオペをするべきと考えているドクターもいます。
骨補填材の話は、まだまだ結論がでない状態ですが、今の私自身の考えもあります
私は現在、人工骨のみを使用しています。
それは吸収性のβーTCPと非吸収性のHAを半々に混ぜて使用することです。
吸収性のものは将来、本人の骨へ置換されることを期待し、非吸収性の物は造った骨のボリュームを維持することに有利なためです。
私はこれを2006年6月にインプラントジャーナルに発表しましたが、その後βーTCPとHAの混合が良好な結果を出すという同様な考え方が次々と報告されています。人工骨で良好な結果がでるのであるならば、できれば多くのインプラントドクターがその方向を見直してほしいと感じています。
骨補填材の症例
この患者さんは、上顎にインプラント治療を希望していました。それで主治医に相談すると
「あなたの上顎の骨はとても薄く、骨を造成しなければなりません。私の母校の口腔外科で入院をして、体の骨を採取して骨を増しましょう。そうしなければインプラントはできませんよ。」
と言われたのです。入院して手術することにかなり抵抗感があった患者さんは、インターネットで調べ私の所へやって来ました。
「そんな大げさな事をする必要はないですよ」
と私に言われ、私のところでインプラント手術を行う事になりました。手術は人工骨(吸収性のものと非吸収性のものを半々)を使用してあっという間に終りました。
上顎洞に骨を造成するには、ソケットリフトという方法が行われたのですが、従来行われているトンカチでたたく、オステオトーム法でなく、私の考案したオステオプッシング法という簡単な方法で行ったため、非常に少ないダメージでの手術でした。
完成した歯が入ったとき患者さんは「本当にこんな簡単にできたんですね!」
と感激の言葉がもれました。入院などでしなくてもインプラント治療は可能だったのです。
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